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人的資本の情報開示とは|義務化はいつから? なぜ重要? 19の項目例と政府指針や動向

人的資本の情報開示とは? 義務化の動向や政府指針、向き合い方などを解説

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人的資本とは、人間が持つ能力スキルや健康状態などを指し、それらを土地やお金のように資本と見なす考え方までを含んだ概念です。人的資本情報の開示義務化の波を受け、企業価値を判断する基準として、人的資本の重要性が高まっています。

当記事は、人的資本の情報開示について、わかりやすく解説します。あらためて「人的資本」がなぜ重要なのかをおさらいするとともに、国内外における情報開示の経緯や例、政府指針で示された「7分野19項目」をご紹介しています。

記事の終盤には、これから情報開示に向けて動き出す企業とすでに開示済みの企業、それぞれに向けてポイントとやるべきこともまとめていますので、企業の経営者や人事労務担当者は、参考にしてみてください。

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目次(タップして開閉)

    人的資本の情報開示とは

    人的資本の情報開示とは、企業経営において自社の人材情報を社内外に公表することです。「従業員の成長のために行っている具体的な取り組み」について数値化し、財務情報と同じようにステークホルダー向けに示すことをいいます。

    日本では、約4,000社の上場企業に対して、2023年3月期決算以降の有価証券報告書に、人的資本情報の記載が義務づけられました。


    まずはあらためて「人的資本」について確認してみましょう。

    人的資本/人的資本経営とは

    人的資本とは能力やスキル、技術など個々に備わった特性を「資本」とみなすことです。統一的な定義は定まっていないようですが、当初は教育などによって身についた知識や資格を指していたものが、徐々に生まれながらの資質や能力を含んで認識されるようになりました。

    人的資本に対して、土地やお金は物的資本といいます。もともと経済学では、事業の元手となる資金を資本と呼び、投資することで価値を高められると考えられています。

    特に最近は、ビジネスにおいて自社の従業員一人ひとりの存在を資本と捉える考えが定着してきました。本人の先天的な特質はもちろん、人材教育や人材採用に投資して人材の価値をさらに高め、中長期的な企業価値の向上にもつなげようとする人的資本経営に各社力を入れています。

    組織における人的資本の具体例

    組織における人的資本とは、従業員一人ひとりが持っている能力やスキル、技術、資格、健康状態まで「ヒト」に関するあらゆる領域が対象です。

    研修の実施状況
    採用人数
    人材育成の方針
    従業員満足度
    ダイバーシティ(多様性)の実現状況

    人的資源との違い

    人が投資対象である人的資本に対して「コスト」「費用」とみなすのが人的資源です。つまり、人は使われるもの、消費されるものという捉え方です。

    しかし人的資本経営への注目が高まるにつれて、人材の成長が企業の成長にも貢献するという考え方が主流になり、人材マネジメントの手法は徐々に移行しつつあります。

    人的資本の情報開示の義務化はいつから?対象企業は?

    日本では、2023年3月期決算以降の有価証券報告書から、上場企業を中心に人的資本情報の記載が義務づけられました。

    対象となる企業は、有価証券報告書を発行している大手企業約4,000社です。有価証券報告書とは、株式を発行する国内上場企業が金融庁に提出する「財務報告」をいいます。

    記載が義務化された開示項目は、従業員の状況をあらわす指標として「男女間賃金格差」「男性の育児休業取得率」「女性管理職の比率」などがあります。

    参照:『サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ』金融庁

    人的資本の情報開示における7分野19項目とは

    人的資本の情報開示義務化に向けて公表された『人的資本可視化指針』には、7分野19項目の開示項目の例が具体的に記されています。これらの項目はあくまでも例であり、必ずしもすべてを開示する義務はありませんが、経営の透明性を高めるためにも参考にしてみてください。

    19の開示項目例は以下の通りです。

    開示事項の例
    育成リーダーシップ
    育成
    スキル・経験
    エンゲージメントエンゲージメント
    3流動性採用
    維持
    サクセッション
    4ダイバーシティダイバーシティ
    非差別
    10育児休業
    5健康・安全11精神的健康
    12身体的健康
    13安全
    6労働慣行14労働慣行
    15児童労働・強制労働
    16賃金の公平性
    17福利厚生
    18組合との関係
     7コンプライアンス・倫理19コンプライアンス・倫理

    参照:『人的資本可視化指針』(内閣官房/2022年8月30日)


    1.人材育成

    人材育成に関する開示事項は、リーダーシップ、育成、スキル・経験の3項目に分かれています。具体的には研修時間や費用、研修への参加率、リーダーシップの育成などが含まれます。


    2.従業員エンゲージメント分野

    従業員エンゲージメントは、従業員が自社に対して感じる熱意や仕事への積極的な取り組みの度合いを指します。従業員がやりがいを感じながら積極的に仕事に関与しているかを通して指標化し、人的資本情報として開示するとよいでしょう。


    3.流動性に関する分野

    流動性に関する開示事項は、採用、維持、サクセッションの3項目に分かれます。具体的には離職率・定着率、採用・離職コスト、後継者準備率などが挙げられます。


    4.ダイバーシティ分野

    ダイバーシティとは日本語で多様性と訳し、性別や人種、民族、年齢、宗教、性的指向、身体的能力など多様な属性を持つ人々が存在とその違いを尊重することを指します。

    ダイバーシティに関連する開示事項は、ダイバーシティ、非差別、育児休業の3項目に分かれています。具体的には属性別の従業員・経営層の比率、正社員・非正規社員等の福利厚生 の差、育児休業等の後の復職率・定着率などが含まれます。

    5.健康・安全分野

    健康・安全分野に関連する開示事項は、精神的健康、身体的健康、安全の3項目に分かれています。具体的には労働災害の発生件数・割合、死亡数、医療・ヘルスケアサービスの利用促進、安全衛生研修を受講した従業員の割合などです。


    6.労働慣行分野

    労働慣行とは、労働者と雇用主との間で事実上確立されている慣習や実践をいいます。職場の文化や日常的な業務運営に深く根ざしており、労使関係や労働環境に重要な役割を果たします。

    労働慣行は、職場における雇用、労働条件、労働者の権利、労働安全衛生に公正であるかを測る指標の一つです。

    人的資本の情報開示において、労働慣行の分野は労働慣行、児童労働・強制労働、賃金の公平性、福利厚生、組合との関係の5項目に分かれています。具体的には児童労働・強制労働に関する説明がされているかなどがあります。


    7.コンプライアンス・倫理分野

    コンプライアンス(法令遵守)とは、企業や個人が法律や規制、業界の標準や倫理的な基準に従うことです。具体的にはコンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合などが含まれます。

    人的資本の情報開示が求められる背景|なぜ必要?

    人的資本の情報開示が義務づけられるようになったのは、どのような背景があるのでしょうか。4つの理由を解説します。

    欧米で義務化
    無形資産の価値向上
    サステナビリティ経営・ESG投資への関心の高まり
    ISO30414の公表

    欧米では義務化されている

    人的資本の情報開示の流れは、すでに海外では始まっています。米国では、2020年にSEC(証券取引委員会)が、上場企業に対して開示を義務化しました。欧州では2014年から従業員に関する情報の開示が促進されています。

    人的資本(無形資産)の価値が高まっている

    人的資本を含む「無形資産」の価値が高まっていることも、情報開示が求められる背景にあります。

    今までは、量的に測りやすい物的資本(有形資産)を記した財務情報によって、企業価値を見定められ、投資を判断されてきました。しかし、リーマンショックを経て人的資本のような無形資産を評価する傾向が高まっています。

    「財務情報のみでは中長期的に企業価値を評価しづらい」という理由から、より持続可能で長期的な投資先である「人」に目が向けられるようになりました。



    サステナビリティ経営・ESG投資への関心が高まっている

    近年は、ESG投資をはじめサステナビリティ経営に注力する企業が増加しています。

    ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3視点で投資先の企業を選定する方法です。

    人的資本は、3つの観点のうち特に企業価値に結びつきやすい「社会(Social)」に該当します。ステークホルダーの投資先の選定条件として「企業がどれだけ社会貢献しているか」という観点に関心が向けられているのです。


    ISO30414が公表された

    人的資本の情報開示に向けた国際的なガイドライン『ISO30414』が発表されたことも影響しています。ISO30414とは「人的資本情報をどのように報告すべきか」という指針を示す目的で、ISO(国際標準化機構)により公表されました。

    これを受けて、欧米企業を中心に世界中でISO30414にのっとった人的資本の情報開示が加速しています。

    人的資本の情報開示|義務化までの流れ

    2023年は「人的資本の開示元年」と呼ばれ、特に「人的資本の情報開示」に関して注目が高まった年といえます。日本で義務化されるに至った流れを順にご紹介します。

    2022年5月『人材版伊藤レポート2.0』

    日本で人的資本が注目されるようになったきっかけに、2020年に経済産業省が発表した『人材版伊藤レポート』があります。『人材版伊藤レポート』とは「持続的に企業価値を高めるために人的資本が重要であること」を提示した報告書です。

    さらに2022年5月には、その内容を深掘りした『人材版伊藤レポート2.0』が発表されました。年功序列や終身雇用が当たり前ではなくなった今、企業と従業員が双方にとってメリットがある経営を行うためにも、人的資本の重要性を再認識させるような内容に更新されています。

    参考:『人材版伊藤レポート』(経済産業省/2020年9月30日)
    参考:『人材版伊藤レポート2.0』(経済産業省/2022年5月)

    2021年6月コーポレートガバナンス・コード改訂

    2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂されました。コーポレートガバナンス・コードとは、企業が透明性を保ちながら経営を統治する原則です。その中に、人的資本の情報開示を求める指針が追加されました。

    参照:『コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)』東京証券取引所

    2022年2月内閣官房『非財務情報可視化研究会』

    2022年2月に発足した経済産業省が主催する非財務情報可視化研究会は、人的資本情報の開示にあたって、非財務情報を評価する方法を検討する会議です。これにより具体的に開示の指針を取りまとめるために活動が活発になりました。

    2022年8月内閣官房『人的資本可視化指針』

    2022年6月内閣官房により『人的資本可視化指針案』が公開されました。日本企業に向けた開示項目の具体例やガイドラインの活用方法など、人的資本の情報開示に関する指針の草案です。

    この指針案へのパブリックコメントを経て、2022年8月30日正式に『人的資本可視化指針』が公表されました。これにより、日本政府としての人的資本情報開示の指針が示されたことになります。


    岸田内閣「人への投資と分配」に重点

    岸田内閣は新しい資本主義の実現に向けて、経済成長だけでなく、リスキリングや賃上げの推進など「人への投資」を強化すると宣言しました。世界的に男女の賃金格差がある国内の事情を踏まえて、男女間の賃金差異といった人的資本情報の開示義務化などを打ち出しています。

    参考:『新しい資本主義』首相官邸ホームページ
    参考:『2022年7月号 岸田政権の当面の政策方針』独立行政法人労働政策研究・研修機構

    人的資本の情報開示に向けた検討事項

    『人的資本可視化指針』には、具体的な人的資本の開示事項を検討するうえで、2つの留意点が挙げられています。

    ただ人的資本の情報開示を行うのではなく、どのような点に注意して開示項目を決めるべきか、以下の検討事項を参考にてみてください。

    「独自性」と「比較可能性」のバランス

    1つめは、自社ならではの経営戦略や人材戦略のような「独自性のある事項」と、投資家が企業間の比較分析の際に必要とする「比較可能性が重視される事項」を、バランスよく組み合わせることです。

    独自性のある事項を、従業員エンゲージメントのような比較可能性が重視される情報と関連づけて説明することで、開示情報に説得力を持たせることができます。

    まずは、自社にとって独自性を示すべき事項と、比較可能性を重視すべき事項を選定してみましょう。

    「価値向上」と「リスクマネジメント」の観点

    2つめは「価値向上」と「リスクマネジメント」の観点から開示事項を整理することです。

    開示事項の中には、企業の価値向上に向けた取り組みにより投資家からの評価獲得を企図する「価値向上」に関する事項と、ネガティブな評価を回避しステークホルダーからの信頼を得るため必要とされる「リスクマネジメント」に関する事項が含まれています。

     ステークホルダーのニーズを把握したうえで、どの事項を選択し、開示するのかを明確にしながら進めることが望ましいとされています。

    参照:『人的資本可視化指針』(内閣官房/2022年8月30日)

    人的資本の情報開示への向き合い方

    人的資本の情報開示に向けて、企業は第一に「社内のデータを収集・分析する」という準備が必要です。

    自社の人的資本に関する取り組みや成果などを可視化することで、自社の現状を的確に把握することができます。現状の把握ができることで、目標とのギャップや改善すべき点が見えてくるでしょう。

    人事戦略においては、今すぐに課題を解決するのではなく「中長期的な成長を見据えた施策を行っているかどうか」という点が重要視されます。収集したデータをただ公開するのではなく、自社の企業理念やミッション・ビジョンと紐づけながら、ストーリー性を持たせた説明ができるように意識するとよいでしょう。

    まずは自社にとって競争優位となるものは何かを考え、必要なデータを収集することから始めてみてはいかがでしょうか。

    人的資本の情報開示に向けた取り組み方

    人的資本の情報開示を行う手順について紹介します。

    1. データの収集・分析

    先述のように、人的資本の情報開示のためには、はじめに社内のデータの収集・分析を行い、現状を把握することが必要です。

    データの収集や分析を行う際は、データを簡単に数値化・可視化し、社内で一元管理できるタレントマネジメントシステムのようなツールの活用もおすすめです。

    過去のデータと比較し、施策を行った結果どの程度の成果が出たのかを分析・改善するなど、PDCAサイクルを定着させることを目指すといいでしょう。

    2. 戦略的なKPI・目標を設定する

    次に、自社の経営戦略や人事戦略につながるKPI・目標設定を行います。

    自社が目指す具体的な姿を目標に設定して「どのような施策を行うことで、どのような結果につながるのか」という、一貫したストーリー性を持たせることを意識してみましょう。

    3. ステークホルダーからの意見を反映して改善を繰り返す

    情報開示が先行している企業は、投資家を含むステークホルダーからの意見を施策に反映することを意識してみましょう。

    自社の目標とそれに対する施策を情報開示し、ステークホルダーからのフィードバックを受け入れ、改善を繰り返すことが大切です。

    人的資本の情報開示例

    最後に、人的資本の情報開示を行っている国内企業の例を紹介します。

    株式会社リンクアンドモチベーション

    株式会社リンクアンドモチベーションは、日本で初めてISO30414の認証を取得した企業です。

    ISO30414にのっとった情報開示のみをするのではなく、自社の組織戦略や経営の考え方をまとめた『Human Capital Report 2021』を刊行しています。

    『Human Capital Report 2021』では、自社の戦略に加えて「採用」「育成」「制度」「風土」の4領域についてのマネジメントについて公表しています。

    参照:『Human Capital Report 2021』(株式会社リンクアンドモチベーション/2022年)

    旭化成株式会社

    旭化成株式会社では、雇用形態別従業員数や教育・研修など基本的な情報に加えて、サステナビリティへの取り組みを強調した情報開示を行っています。

    サステナビリティへの取り組みとして、持続可能な社会への貢献を追求することで、持続的な企業価値向上をもたらすという方針を示しながら、それに対する施策を紹介しています。

    参照:『ESGデータ』(旭化成株式会社)

    人的資本の情報開示準備にタレントマネジメントシステム

    2022年8月に内閣官房が『人的資本可視化指針』を発表したことにより、日本でも人的資本の情報開示を進める企業が増えています。

    2023年には有価証券報告書への人的資本情報記載の義務づけも予定されているように、国内でも情報開示の要請はますます高まると考えられます。義務化される前に、今のうちから準備を進めている企業も一定数いるのではないでしょうか。

    情報開示の準備に必要な社内の人的資本のデータ収集・分析には、タレントマネジメントシステムの活用が便利です。

    『スマカン』は、従業員一人ひとりの基本データやスキルなどの情報を、クラウド上で一元管理するタレントマネジメントシステムです。アンケート機能などを活用すれば、従業員満足度やエンゲージメントの調査・分析も手軽に実施できます。目的に応じて欲しい機能だけを選べる柔軟な料金プランでご利用いただけますので、多機能過ぎて使いこなせないという無駄はありません。

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    人的資本の情報開示を進めるためにも、まずは社内の人的資本の情報整理から始めてみてはいかがでしょうか。

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    記事監修

    監修者

    スマカン株式会社 代表取締役社長 唐沢雄三郎

    一貫して現場に寄り添う人事システムの開発に注力している起業家。戦略人事情報・人材マネジメントシステム、マイナンバー管理システムをはじめ、近年はタレントマネジメントにまで専門領域を広げ、着実に実績を積み上げている。主力製品は公共機関など多くの団体・企業に支持され、その信頼と実績をもとに日本の人材課題の解決に貢献している。

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