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人的資本経営とは? 背景や手順、取り組み方のポイントも解説!
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人的資本経営とは、人材を「資本」とみなし人材価値を最大限に活かすことで企業価値を高める経営手法です。2023年より、人的資本情報の開示が義務化されたこともあり、多くの企業や投資家たちから注目が集まっています。
しかし「人的資本経営とは何かいまいち理解できていない」「人的資本経営を進めるポイントが知りたい」と感じている企業も少なくありません。
当記事では、人的資本経営とは何かや注目される背景、人的資本経営を推進するために何をすればよいのかなどを中心に解説します。
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目次(タップして開閉)
人的資本経営とは
人的資源経営とは、企業で働く従業員のスキルや知識を企業の資本として捉え、その価値を高めるために投資の対象とし、企業価値の向上を目指す経営手法を指します。
人的資本という言葉には明確で統一された定義がないため、意味や対象に多少の違いがありますが、経済産業省では人的資本経営を以下のように定義しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
企業における投資対象には有形資産と無形資産があり、従業員のスキルや知識、意欲などの人的資本は目に見えるものではないため、無形資産に該当します。
参照:『人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~』経済産業省
資本とは
そもそも「資本」とは、一般的に事業を行うために必要な資金のことを指します。
経済学や法学、会計学など学問分野によって厳密には定義が異なり、近代経済学においては生産三要素(土地・資本・労働)の一つに分類されています。生産活動を行うために必要不可欠な要素です。
資本には、財務諸表に記載される「財務資本」、工場のようなインフラを指す「製造資本」、特許や著作権などを指す「知的資本」などの種類があります。
人的資本と人的資源の違い
人的資本と人的資源は「何を対象とするのか」「価値の所在」に違いがあります。
人的資本とは、人材を投資対象として捉え、研修や経験によって得た知識やスキル、経験などが該当します。さらに、人的資本は「人そのもの」を指しており、企業価値を生み出すうえでもっとも重視される資本ともいえます。
一方で人的資源とは、人材を消費対象として捉え、もともとの状態からいずれ減っていくという考え方に基づいた概念です。
人的資本では将来において価値を生み出す場合もあります。一方の人的資源は消費すれば価値が減少するなど、現在における価値を指しています。
また、人的資本のために割く費用は「投資」ですが、人的資源のために割く費用は「コスト」に分類される点にも大きな違いがあるといえるでしょう。
人的資本経営と従来の経営の違い
人的資本経営は、従来の経営と比べてどのような違いがあるのでしょうか。
人的資源(管理)から人的資本(価値創造)へ
まず従来の経営との大きな違いとして、人的資本経営は人材を「資源」と見なすのではなく「資本」と見なします。
従来の経営では人材を資源として「管理」しており、年功序列や終身雇用のように企業と従業員が相互依存の関係にあったといえるでしょう。
それに対し人的資本経営は、人材を管理するのではなく、企業と従業員が自律的な関係において「価値創造をする」という考え方の経営スタイルです。
人事業務は経営と連動した戦略人事へ
従来の経営における人事業務は、採用や労務管理のようなオペレーション業務が主流でした。
一方で人的資本経営における人事は、経営戦略と紐づけて施策を実施する「戦略人事」が重要とされています。経営戦略を実現するためには、自社にとって適切な人事戦略を考える必要があります。
事業の目標達成に必要な人材を可視化する「人材ポートフォリオ」を作成するなど、人的資本経営においては経営戦略と連動した人事戦略を実行することが求められます。
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人的資本経営が注目される背景
人的資本経営は近年注目されています。その背景にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な背景や理由について解説します。
非財務情報や無形固定資産への関心
人的資本経営が注目される背景には、企業の価値をはかる基準として、ステークホルダーから「非財務情報」や「無形固定資産」が重視されている点が挙げられます。
従来の投資家は、企業の財務情報に基づいて投資先を選定することが主流でした。しかしリーマンショックなどを経て、財務情報のみでは将来的な企業価値は見えにくいと考えられ始めたのです。
そこで、財務諸表だけではわからない「非財務情報」や「無形固定資産」への関心が高まっています。企業の価値や成長を評価するうえでは、企業活動の主体となる人的資本がとりわけ重視されているのでしょう。
ESG投資やSDGsへの関心
人的資本経営が重視されている背景には、ESG投資やSDGsなどサステナビリティへの関心の高まりもあります。
「従業員の育成・労働環境の改善」や「環境問題への取り組み・社会貢献」などに対し、企業がどのように取り組んでいるのかという姿勢も、投資家が企業の持続的な成長を判断するうえで重要視されるようになりました。
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人材や価値観の多様化
近年は女性の社会進出やグローバル化などにより、人材や価値観の多様性が広がっています。
また、場所や時間、雇用形態に縛られずに、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が求められているため、働き方改革も進められています。
このような観点から、多様な人材を効果的に活用して企業価値を高めるためにも、人的資本経営の考え方は注目されているのでしょう。
技術の進歩
人的資本経営が注目されているのは、技術の進歩によって競合他社との差別化がはかりにくくなったことも挙げられるでしょう。
AIやビッグデータなどによって、業務の効率化や最適化が可能になった現代は「第4次産業革命」とも呼ばれています。しかし、技術やデジタルが進歩・普及したため、それだけでは競争に生き残ることが難しくなってきているのも事実です。
人的資本に投資すると、イノベーションを起こせるアイデアやクリエイティブな発想がを生み出せるため、競合との差別化につながるでしょう。
ISO30414の発表
人的資本経営が重視されている背景には、2018年に発表された『ISO30414』も関係しています。ISO30414の発表を機に、欧米を中心に世界中の企業で、人的資本の情報開示がますます進んでいるためです。
人的資本経営とISO30414
「ISO30414の発表を機に人的資本の情報開示が進んでいる」とご紹介しましたが、人的資本の開示とISO30414にはどのような関係があるのでしょうか。
ISO30414の概要や人的資本の開示をめぐる海外と日本の動き、日本企業の人的資本の開示状況についてご紹介します。
ISO30414とは
ISO30414とは、ISO(国際標準化機構)が発表した『人的資本情報開示のためのガイドライン』です。
ISOは国際間の取り引きをスムーズにすることを目的に、製品やサービスにおける「国際的な基準」を制定する機関です。
つまりISO30414は、世界中の企業に対して「人的資本の情報をどのように報告すべきか」という指針を示したガイドラインといえます。
人的資本の開示が義務化された海外
人的資本情報の開示に関して、米国では2020年にSEC(米国証券取引委員会)により、上場企業に対する人的資本の開示が義務づけられました。
この背景にはESG投資への関心の高まりのほかに、リーマンショックを機に「財務諸表のみで企業価値を判断することはリスクだ」と考えられるようになったことにあります。
そこで、投資家からの人的資本の開示要求が強まったのです。
日本でも人的資本情報開示に注目が集まる
欧米に続き、日本でも人的資本の開示に注目が集まるようになりました。きっかけは、2020年9月に経済産業省が発表した『人材版伊藤レポート』です。
人材版伊藤レポートとは、人材マネジメントとして人的資本の重要性が提示された、経済産業省による報告書です。2022年5月には『人材版伊藤レポート』をもとに、内容をより深堀りした『人材版伊藤レポート2.0』が発表されました。
人材版伊藤レポート2.0とは
人材版伊藤レポート2.0には、人的資本の重要性に加えて、人的資本経営を実現するためのアイデアや具体的な事例が記されています。
従来の日本企業では当たり前であった「年功序列」や「終身雇用」のような働き方が変容する中で、企業や従業員が双方にとってメリットがある経営を行うためにも、人的資本経営の重要性を再認識させる内容がまとめられています。
日本企業の人的資本の開示状況
日本企業でも人的資本を開示する企業は増えており、2022年3月には株式会社リンクアンドモチベーションが日本・アジア初のISO30414の認証を取得しています。
また非財務情報のうち、人的資本と企業のサステナビリティに関して、上場企業に対して2023年の有価証券報告書から開示が義務づけられました。
人的資本の分野では「人材育成方針」「社内環境整備方針」に関する内容について、サステナビリティ情報の「戦略」や「指標及び目標」の項目欄に、必須で記載を求めるとしています。
このように、対象の企業は人的資本に関する情報を社外に開示することとなりました。
参照:『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について』金融庁
人的資本経営におけるポイント
人的資本経営はこれからの企業経営の在り方として注目されています。人的資本経営を推進するためには、大きく分けて4つの取り組みが必要です。
人的資本価値の向上
人的資本経営の1つめのポイントは、人的資本の価値を高めるための取り組みです。
人的資本経営において重要なのは、人材への教育です。従業員のスキルや能力を高めることが、結果として人的資本経営による企業価値の向上につながるでしょう。
人的資本の価値を高めるためには、従業員への教育計画を策定し、一人ひとりが成長できる環境を整備することが大切です。適切な教育を実施するために、一人ひとりの持つスキルや経験、希望のキャリアパスを把握しておくようにするといいでしょう。
人的資本の情報開示
人的資本経営の2つめのポイントは、人的資本の情報開示を行うことです。人的資本の価値を高める取り組みを行うだけではなく、その情報を公開することが企業価値向上につながります。
人的資本に関する情報が開示されると、投資家は企業価値を中長期的な視点から評価できるようになります。開示した情報が投資家から評価された企業は、さらなる投資を集めやすくなるでしょう。
しかし注意したいのが、人的資本の情報開示が目的化してしまうことです。
外部への情報開示が目的にならないよう、何のために人的情報を開示するのか、企業価値を高めるためには人的資本の価値をどのように高めるのかを深く考える必要があるでしょう。
戦略人事の推進
人的資本経営の3つめのポイントは、戦略人事の推進です。人的資本の価値を引き出すためには、従来のオペレーション人事ではなく、戦略人事への転換が必要です。
人的資本を有効活用し、経営戦略の実現を目指すためには、さまざまな人事施策の実行がより重要になるでしょう。
従業員のスキルの把握
人的資本経営の4つめのポイントは、従業員データの把握や管理です。人材に適切な教育を行うためには、あらかじめ従業員一人ひとりのスキルを把握しておく必要があります。
「不足しているスキルは何か」「適材適所がされずにスキルを発揮できていない従業員はいないか」などの分析を行いましょう。
このような分析を行うためには、スキルマップの作成や、タレントマネジメントシステムの活用がおすすめです。
従業員のスキルを把握することで、適切な人材育成や配置を行うことが可能になり、結果として人的資本価値を引き出すことになるでしょう。
人的資本経営の進め方
人的資本経営を進めるにあたり、手順や進め方について特に押さえておきたいポイントを中心にご紹介します。
経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営を進めるには、まずは経営戦略と人材戦略の双方を紐づけなければなりません。
経営戦略と人材戦略が連動していないと、企業の目標達成が遠くなるだけでなく、目標達成ができないことで人材のモチベーションが低下する危険性もあります。
経営戦略を達成するために必要な人材戦略は何なのかという点を踏まえ、目指す姿を決めるとよいでしょう。
関連記事 人材戦略とは? 立て方 |
KPIの設定
人的資本経営を進めるうえでは、経営戦略や人材戦略をもとに、どのような施策を進めればいいのか、KPIを設定しましょう。
KPIを設定する際は、ステークホルダーからの信頼性を高められるような内容を意識することも大切です。
人的資本経営の施策実行と効果検証
人的資本経営に関する準備や意識が整ったら、施策を実行しましょう。施策を実行する際は、効果検証も重要なステップの一つです。
目標の到達度や施策実行後の変化などを検証し、改善につなげましょう。定性的な目標や満足度を測定したい場合は、エンゲージメントサーベイなどを活用して、従業員の声の変化を測定するとよいでしょう。
人材版伊藤レポート2.0における注目点
人的資本経営において、人事担当者の役割は重要度を増しています。経済産業省の『人材版伊藤レポート2.0』で紹介されている、具体的な5つの手法についてご紹介します。
人材ポートフォリオの策定・運用
人的資本経営では、人材ポートフォリオの策定・運用が重要とされています。
人材ポートフォリオとは、事業を進めるうえで「どんな能力を持った人材が、社内のどこに何人必要か」という人材構成を分析するツールです。
人材ポートフォリオは、戦略人事の指針を策定するうえで、有効活用できるツールとして注目されており、適材適所に人材を配置することで業績向上にもつながると期待されています。
関連記事 人材ポートフォリオの作り方とは? |
人材の多様化への取り組み
人的資本経営による中長期的な企業価値向上のためには、国籍や性別、年齢、ライフスタイル、価値観などの多様性を尊重し、積極的に取り込むことが必要だと紹介されています。
多様性を認める企業は、企業イメージの向上やブランディングの強化も期待できます。多様性を認めることで企業価値が高まると、優秀な採用人材や新たな顧客の確保にもつながるでしょう。
教育や学習環境の整備
人的資本経営を推進するなかで、人材を育成するための投資として、業務に関連した教育を行うなど学習環境を整備する必要があります。
たとえば、学び直しによって新たなスキルや知識を習得する「リスキル」もその方法の一つでしょう。
新たなスキルの習得により、人的資本や企業の新たな価値創造につながるほか、従業員が自律的なキャリア形成ができるようになるなど、企業と個人の双方にメリットがあります。
リスキルや学び直しによって従業員の知識やスキルが向上すると、人的資本の価値も向上します。人的資本経営を推進するうえで、教育や自己研鑽(けんさん)の機会を積極的に設けるといいでしょう。
従業員エンゲージメント向上施策
人的資本経営を行う目的は、企業価値を向上するだけでなく、企業戦略や企業目標を達成するためでもあります。従業員エンゲージメントとは、企業に対する貢献意欲など、会社に対する従業員の信頼や愛着心のことを指します。
企業目標を達成するためには、人材の能力やスキルが大きく影響します。
人材が目標に向かって取り組むためには、会社のために自発的に努力するなど貢献意欲が必要であるため、従業員エンゲージメントを高める施策も意識的に取り組みましょう。
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時間や場所にとらわれない働き方の推進
人的資本経営を進めるには、場所や時間にとらわれない働き方を推進する必要もあります。
新型コロナウイルスや働き方改革の推進により、多くの企業で多様な働き方が取り入れられるようになりました。しかし、家庭の事情によって働く場所や時間が制限されるケースも少なくありません。
多様な働き方の選択肢として、近年ではオフィスワークとテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を取り入れる企業も多くあるため、参考にしてみましょう。
関連記事 ハイブリッドワークとは |
参照:『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~ 』経済産業省
人的資本経営は人材管理が重要
人的資本経営を推進するためには、タレントマネジメントシステムの活用がおすすめです。
タレントマネジメントシステムは、従業員データを管理しながら、収集したデータを可視化したり、データを分析したりできるため、効率的に人的資本情報開示の準備を進められるでしょう。
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たとえば、スキル管理機能によって従業員の個々のスキルやダイバーシティなど属性に関するデータを把握しやすくなります。
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記事監修
スマカン株式会社 代表取締役社長 唐沢雄三郎
2008年より、一貫して現場に寄り添う人事システムの開発に注力している起業家。戦略人事情報・人材マネジメントシステム、マイナンバー管理システムをはじめ、近年はタレントマネジメントにまで専門領域を広げ、着実に実績を積み上げている。主力製品は公共機関など多くの団体・企業に支持され、その信頼と実績をもとに日本の人材課題の解決に貢献している。
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