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アサーショントレーニングの方法とは【実践例と例題】メリットも解説

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職場で良好な人間関係を保ちながら、自分の意見を主張できるスキルは非常に重要です。しかし、自分の意見を的確に表現し、相手に伝えるのは簡単ではありません。そこで注目されているのが「アサーショントレーニング」です。トレーニングによって自己表現や他者との対話において積極的で建設的なコミュニケーションが期待できます。
本記事では、アサーショントレーニングの基本的な方法や実践例を解説しています。例題を通じてアサーションを身につけるヒントも紹介しているため、自己表現の技術を磨き、より健全で良好な人間関係の構築にお役立てください。
目次(タップして開閉)
アサーショントレーニングとは
アサーショントレーニングとは、主にコミュニケーションや人間関係のスキルを向上させるためのトレーニング手法です。個人が自分の意見や感情を明確に表現するための能力の向上を目的としています。
歴史
アサーショントレーニングの基礎は、アメリカの心理学者アンドリュー・ソルター氏の著書『Conditioned Reflex Therapy』です。本書では人間の行動を理解するうえでの基本的な考え方が紹介されています。このテクニックをもとに、1950年代頃からアサーショントレーニングは世界的に広まっていきました。日本では、1980年代頃から職場のストレス軽減や効果的なコミュニケーション手法として取り入れられるようになっています。
職場で求められる背景
当初、アサーショントレーニングは職場内のストレス軽減やコミュニケーションスキルの向上を目的に取り入れられました。近年では、パワーハラスメントの防止やリーダーシップの見直しなどにも活用されています。アサーショントレーニングによって、相手に配慮した発言ができるようになるため、社内コミュニケーションが円滑になり、生産性の向上も期待できます。
アサーショントレーニングで意識したい自己表現のタイプ
アサーショントレーニングでは、意識すべき4つの「自己表現」のタイプがあります。
アグレッシブ:自分優先、他者を攻撃
アグレッシブタイプの傾向は、自分のことだけを考え、他者に対して攻撃的になることです。他者への配慮ができないほか、意見を受け入れない、相手の立場を考えないなどネガティブな面が目立ちます。
また、自分の主張を強引に押し通そうとするため、パワーハラスメントにつながりやすい言動になりがちといえます。
・他者の意見や立場を尊重せず、自分の意見を強引に主張し、価値観を押しつける ・他者に対して攻撃的な言葉を使い、侮辱的な言葉や誹謗中傷をする ・他者の言葉に耳を貸さず、理解しようとしない |
パッシブアグレッシブ:間接的に他者を攻撃
パッシブアグレッシブタイプの傾向は、受け身の姿勢で他者を間接的に攻撃することです。アグレッシブタイプと違い、攻撃的な言葉を使うことはないものの、不平や不満を微妙な仕草や態度で表現し、自分の思い通りに周囲をコントロールしようとします。
他者からよく思われたい、嫌われたくない、という無意識の心理が働いているタイプです。
・会議や約束の時間に故意に遅れたり、重要なイベントに無断で欠席したりする ・明確な意思表示はせず、陰口など間接的な非難や皮肉で他者を攻撃する ・ため息や不機嫌な態度で他者を振り回す |
ノン・アサーティブ:自分より他者を優先
ノン・アサーティブタイプの傾向は、他者を優先しすぎてしまうため、自分の意見や感情を適切に表現できないことです。周囲とトラブルを起こすことは少ないものの、自分の欲求や意見を抑え、相手の期待にあわせてしまうため、実際には内なる不満がためていることも少なくありません。あまりにも不満がたまりすぎた結果、アグレッシブタイプになる危険性も秘めています。
・会話で自分の意見を適切に表現できず、他者に同調する ・何を考えているかが見えにくい ・大げさにへりくだり、自己防衛的な振る舞いをする |
アサーティブ:自分と他者を尊重
アサーティブタイプは、自分と他者を尊重し、適切なコミュニケーションを構築できます。自分の意見や感情をはっきりと伝えつつ、他者への配慮も欠かさないタイプです。相手に無理にあわせることもありません。TPOに応じて自分の意見を率直に伝えられます。
・会議や会話などで自分の考えを明確に表現し、他者と建設的な対話ができる ・他者の要求や期待にも適切な範囲で断わる ・他者を尊重しつつ、自分の立場を明確に主張できるため、共感と理解を得られる |
アサーショントレーニングを行うメリット
アサーショントレーニングによって生まれるメリットには、主に次のようなものがあります。
信頼関係を構築できる
アサーショントレーニングを通して、自分の意見や要望を適切に表現できるようになると、社内外におけるコミュニケーションが円滑に進みます。相手に対して率直で配慮ある態度を保てると、固い信頼関係が構築できるでしょう。取引先との商談が進みやすくなったり、協力を得られたり、ビジネスの成果にもつながります。
ハラスメント防止につながる
アサーショントレーニングを通じて、適切なコミュニケーションが取れるようになると、ハラスメントの防止にもなるでしょう。たとえば、上司が部下にフィードバックする際、自分の感情に任せた一方的で攻撃的な発言は、むやみに人を傷つけてしまいます。アサーショントレーニングで、他者に配慮した建設的な対話スキルを身につければ、ハラスメントにつながる職場内での不適切な言動を防止できます。
組織内の風通しがよくなる
メンバーが自分の意見を適切に伝え、他者と理解しあうスキルが向上すれば、噂話や陰口、衝突、対立などが減少します。オープンで建設的なコミュニケーションが確立されると、情報のゆがみや不和を防いで、協力的な雰囲気をつくりだします。組織内の風通しがよくなると、従業員エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
ストレスがたまりにくい
アサーショントレーニングを受けると、感情や意見をストレートに表現できるため、不満やプレッシャーがたまりにくくなります。仕事や対人関係においてストレスが軽減され、健康的な働き方も促進されるでしょう。
報告・連絡・相談がスムーズになる
アサーショントレーニングを受けた人々は、他者とのコミュニケーションがスムーズになります。報告や連絡、相談が円滑になることで、業務プロセスが効率的に進み、組織全体の生産性も向上するでしょう。
アサーショントレーニングの心構え
アサーショントレーニングに入る前に次のことを「心構え」として意識することが大切です。
- オープンな姿勢を持ち、自分の感情や考えを率直に示す
- 相手に対して真摯かつ謙虚な気持ちで接する
- 自分と相手が対等な立場であることを理解する
- 意見の対立を防ぐために、肯定的な言葉選びに配慮する
- 伝えたいことを具体的かつ客観的に整理する
- 異なる意見を述べたり聞いたりするスキルを磨く
- 発言には自己責任を持つ
また、事前に自己認識を深め、改善すべき点を洗い出すことも重要です。失敗を恐れず、自分の未熟な部分を受け入れ、積極的に改善に取り組む意欲を持ちましょう。
アサーショントレーニングの方法・無料でできる実践例
アサーショントレーニングの方法は複数あります。無料でできる実践例を3つご紹介します。
DESC法
DESC法とは、Describe(描写)・Explain(表現)・Specify(提案)・Choose(選択)の頭文字を取ったトレーニングの手法です。自分の気持ちを4つの段階に分けて相手に伝える方法です。
Describe (状況の描写)
相手の行動や状況を客観的に描写します。感情や評価を含まず事実だけを具体的に伝える方法です。
場面 | 受け答えの例 |
---|---|
業務を依頼されたとき | 12時から13時まで会議ですが、終わり次第お受けできます。 |
Explain (感情の表現)
描写した状況に対して、自分の感情を率直に表現します。感情を語る際には、相手に対して責任を転嫁せず、自分の感じ方を述べることが大切です。第三者の意見を入れたり、相手への配慮を欠いたりしないように理性を持って伝えましょう。
場面 | 受け答えの例 |
---|---|
業務を依頼されたとき | すぐにお受けしたい気持ちはあるのですが今は難しいです。 |
Specify (具体的な要望や希望の提案)
自分が期待する具体的な行動や変化を提案します。相手に対して何を求めているかを的確に伝えます。自分の意見を押しつけたり、命令口調になったりしないように注意が必要です。
場面 | 受け答えの例 |
---|---|
業務を依頼されたとき | 半分まででしたら今すぐ対応が可能です。いかがでしょうか |
Choose(結果に対する選択肢を提示する)
相手が行動を変えない場合、別の選択肢を提示します。柔軟に対応できるように選択肢は複数用意するとよいでしょう。
場面 | 受け答えの例 |
---|---|
最初の提案が受け入れられなかったとき | 以外に着手できるメンバーを探します。会議を欠席できるか聞いてみます。 |
アイメッセージ(私を主語にする)
アイメッセージは、感情や意見を伝える際に「私」という主語を使い、相手に対して非攻撃的でありながらも自分の立場をはっきり示す手法です。アイメッセージは批判的な言葉ではなく、具体的な状況と自分の感情を結びつけて伝えることが重要です。
たとえば「あなたの態度が不愉快だ」という伝え方ではなく、「昨日の会話で、私はあなたの発言に不快な思いをしました」のように、「I=私は(が)」を主語にして伝えます。そうすることで、相手は自分と対等な立場で意見してくれていると感じられます。
ロールプレイ
ロールプレイは、実際の状況を想定して、特定のコミュニケーションの場面を模擬する訓練方法です。アサーショントレーニングにおいては、ロールプレイを通じて実際のコミュニケーションスキルの向上をはかります。
参加者は特定の役割を演じ、異なる状況でアサーションのスキルを実践します。これにより、実際の場面での対応力や柔軟性が向上し、新しい行動パターンが身につくでしょう。自分の自己表現タイプを判別することにも役立ちます。
ロールプレイ後にフィードバックの場を設けることで、より効果的なアサーションの技術を磨けます。
アサーショントレーニングの例題
アサーショントレーニングの例題をご紹介します。4つの自己表現タイプで答える場面を想定し、それぞれ回答を考えてみてください。
例題 |
---|
あなたは、従業員エンゲージメント向上のための施策として「ハイブリッドワーク制度の導入」を提案しました。数か月間にわたり、調査と計画に取り組んできました。制度導入によって、従業員のワークライフバランスの改善やそれによる生産性向上も期待できます。 ところが、制度導入までいよいよあと少しという段階で、上司が「ハイブリッドワーク制度は理想的だが、従業員同士のコミュニケーションが希薄になるかもしれない。やはりこれまで通り、オフィス勤務制度を維持しよう」と意見を述べました。 この状況に対して、あなたはどのように反応しますか? |
4つの自己表現タイプ別の反応を考えてみてください。
自己表現タイプ | タイプの特徴・回答のヒント |
---|---|
アグレッシブ | 上司の意見に対し攻撃的に反論する。自分の意見を押し通そうとする。 |
パッシブアグレッシブ | その場では意見せず、ほかのメンバーに上司の陰口を叩く。または他者に八つ当たりする。 |
ノン・アサーティブ | 本当は反対意見を伝えたいものの、上司の言いなりになる。不満が蓄積される。 |
アサーティブ | 自分と他者を尊重し、建設的な対話ができる。上司の意見を踏まえた自分の見解も的確に伝えられる。 |
アサーショントレーニングを行うポイント
アサーショントレーニングを行う際に、押さえておきたいポイントは次の6点です。
言葉を整理して選ぶ
アサーショントレーニングでは、適切な言葉の選択が重要です。感情や考えを明確に伝えるためには、適切で明瞭な表現を用いることが必要です。具体的な言葉を使い、相手に理解されやすいメッセージを伝えましょう。抽象的で不確かな表現や感情論ではなく、相手に配慮したわかりやすい言葉を整理して選ぶことが大切です。
言語と非言語の両方を意識する
言葉だけでなく、非言語コミュニケーションも重要です。表情やジェスチャー、声のトーンなども意識しましょう。相手に対して誠実で真剣な態度を持ち、一貫して言語と非言語の一体感を保つことがコミュニケーションの効果を高めます。
継続してトレーニングする
アサーショントレーニングは一度だけでなく、継続して行うことが大切です。スキルは日常の実践と継続的なトレーニングによって向上します。定期的な練習やフィードバックを通じて、新しい状況や相手に応じたスキルを発展させるように努めましょう。
最初に会話のゴールを設定する
トレーニングを始める前に会話のゴールを設定することも重要です。明確なゴールを持つことで、どのようなメッセージを伝えたいかを理解しやすくなります。具体的な目標を立て、それに向かってコミュニケーションを展開することで、よりトレーニングの効果を高められます。
伝えたいことを整理する
アサーショントレーニングでは、自分の伝えたいことを整理し、論理的な構造にまとめることが求められます。事前にメモを取ったり、ポイントを整理しておくと、スムーズなコミュニケーションが実現します。
自分と違う意見も受け入れる
アサーショントレーニングは、他者とのコミュニケーションにおいて自分の意見や感情を適切に伝えるだけでなく、他者の異なる意見や感情を受け入れる柔軟性も重視します。オープンな気持ちと受容の態度を持ち、相手との対話を通じて共感や理解を深めましょう。
アサーショントレーニングが活かせる人事施策
アサーショントレーニングは日常のコミュニケーションのほか、人事施策にも活かせます。人事評価と人材採用の2つのシチュエーションでの活用の仕方を紹介します。
人事評価
アサーショントレーニングを活かした人事評価では、質の高いフィードバックを提供できます。人事担当者や上司が、適切な意見を伝えられると、たとえマイナスの評価結果であっても、部下は素直に受け止め、次への改善策を考えられるでしょう。
また、従業員もアサーショントレーニングによって自分の考えを率直に述べられるようになると、考えを上司に的確に伝えられます。双方のコミュニケーションが円滑に進み、納得度の高い評価制度が実現するでしょう。
人材採用
アサーショントレーニングを活かした人材採用では、企業と候補者の相互理解につながります。面接での対話を通じて採用担当者は、候補者に共感的な態度を示せるとともに、適切な言葉で職務や企業文化を伝えられるでしょう。入社前に互いの理解が進むと、採用率が向上し、ミスマッチも防止できるかもしれません。
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アサーショントレーニングを取り入れて社内コミュニケーションを良好に
アサーショントレーニングは職場における円滑なコミュニケーションを実現するのに有効な手段です。従業員が自己表現や他者との対話において、明確で建設的なコミュニケーションが取れると、より良好な人間関係を築けます。風通しのよい職場環境は、従業員エンゲージメントを高めるため、企業の生産性向上にもつながるでしょう。
アサーショントレーニングは、リーダーシップの向上やチームワークの促進、さまざまな人事施策にも活用できます。本記事で紹介した方法を参考に、自社に適したアサーショントレーニングを取り入れてみてはいかがでしょうか。

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