- 2022.06.09
2022.11.04
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ストレスチェックとは【簡単に】義務化の背景や目的、実施方法を紹介

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近年、従業員のメンタルヘルスを適切に管理する企業が増えてきました。その背景には、労働安全衛生法の改定によって、従業員が50人以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務づけられたことにあります。
当記事では、ストレスチェック制度が義務化された背景や対象となる企業について詳しく解説し、実施方法のポイントを具体的にご紹介します。
目次(タップして開閉)
ストレスチェックとは?
ストレスチェックとは、労働者が自分のストレス状況について知るために行われる簡易的な検査です。労働者は自分のストレス状況に関する質問票に回答します。その結果は集計・分析・評価されたあと、労働者本人に通知されます。
ストレスチェック実施の根拠
労働安全衛生法第66条の10を根拠として、従業員が50人以上の事業場で、すべての労働者を対象に年1回のストレスチェックの実施が義務づけられています。ただしこれは企業側に課せられた義務であり、従業員側にストレスチェックを受ける義務があるわけではありません。
ストレスチェック制度の指針と詳細については厚生労働省のHPで確認できます。マニュアルなどの資料もPDFで公開されています。
参照:『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』厚生労働省(2021年改訂)
ストレスチェックの目的
定期的なストレスチェックには次の2つの目的があります。
1.労働者が自分のストレス状況に意識を向け、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ 2.事業者がストレスチェックの結果を踏まえて職場環境を改善する |
従業員は日々の業務でストレスをため込みがちです。しかし、本人は気づかないまま無理を続け、突然うつ病などを発症してしまうことも少なくありません。そのため、ストレスを数値化して、本人に自覚を促すことが求められます。
企業にとっても従業員の突然の休職や退職は好ましくありません。欠員補充のために採用活動や人事異動などを実施しなければならなくなり、無駄なコストが発生するからです。
また、従業員から訴訟を起こされたり、SNSで悪評を拡散されたりすれば、企業イメージの低下にもつながりかねません。こうしたリスクを回避するうえでもストレスチェックは有効です。
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ストレスチェックの義務化の背景
ストレスチェック義務化の流れは、1984年2月に過労自殺が日本ではじめて労災認定されたことから始まります。日本は国際的に自殺率が高く、とくに働き盛りの年代が「勤務問題」を動機として自殺するケースが多いことも背景にあります。
近年は精神障害に関する労災請求件数が増加傾向にあり、企業には従業員のメンタルヘルスへの配慮が強く求められるようになりました。
精神障害に関する労災補償状況
厚生労働省「過労死等の労災補償状況」によると、2019年度の精神障害に関する労災請求件数は2,060件で前年度比240件の増加でした。2020年度は2,051件で前年度比9件の減少でしたが、支給決定件数は608件で前年度に比べて99件増加しました。
精神障害の発病に関与した事象では、上司などからのパワーハラスメントや同僚などからのいじめ・嫌がらせが上位を占めています。
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ストレスチェック義務化の対象となる企業
ストレスチェック義務化の対象は、従業員が50人以上の事業場を有する企業です。従業員が50人未満の事業場を有する企業については、ストレスチェックを実施する義務はなく、努力義務にとどまります。
義務化の対象となる条件
ストレスチェックの対象となる従業員は、厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」の定義では「常時使用する労働者」です。次の2つの要件を満たす従業員が該当します。
1.期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者および及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
2.その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
引用:『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』(厚生労働省,2021改訂)
従業員に含まれるのは、フルタイム勤務の正社員だけではないので注意が必要です。契約社員、パート・アルバイト、派遣社員なども上記2つの要件を満たす場合はストレスチェックの対象となります。
ストレスチェックの実施状況
厚生労働省「ストレスチェック制度の実施状況」によると、令和2年(2020年)度のストレスチェック制度の実施状況は84.9%です。産業別の実施状況の上位は「複合サービス事業」が99.2%、「学術研究、専門・技術サービス業」が93.9%、「金融業、保険業」が93.6%です。
ストレスチェックを実施した企業のうち、ストレスチェックの結果について集団(部、課等)ごとの分析を実施し、その結果を活用した割合は66.9%でした。事業場規模が1,000人以上の企業で83.9%、300~999人の企業で77%、100~299人の企業では68.3%、50~99人64.4%です。
この結果から、ストレスチェックを実施した企業の多くは、結果を踏まえて職場環境を改善したことがわかります。
実施しない企業に罰則規定はある?
厚生労働省「ストレスチェック制度の実施状況」から、従業員が50人以上の事業場を有する企業のうち、約15%がストレスチェックを実施していません。しかし、実施していないからといって直接的な罰則があるわけではありません。労働安全衛生法には罰則が規定されていないからです。
ただし、労働安全衛生法第120条では、ストレスチェックを実施したにもかかわらず、労働基準監督署への報告を怠った場合、50万円以下の罰金を支払わなければならないと規定されています。
また、50人未満の事業場を有する企業には、ストレスチェックを実施後に労働基準監督署へ報告する義務はありません。
ストレスチェックの診断内容
労働安全衛生規則では、ストレスチェックで使用される質問票に以下の3領域を最低限含んでいなければならないと定められています。
1.仕事のストレス要因 | 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目 |
---|---|
2.心身のストレス反応 | 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目 |
3.周囲のサポート | 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目 |
ストレスチェックの質問
厚生労働省『ストレスチェック制度 簡単導入マニュアル』では、これら3領域を含んだ質問票の具体例として「国が推奨する57項目の質問票(職業性ストレス簡易調査票)」を公開しています。
ストレスチェックを受ける従業員は、それぞれの項目について4段階の回答肢で最も当てはまるあてはまるものに○をつけていきます。
仕事のストレス要因
仕事のストレス要因は、従業員が置かれている職場の環境や従事している業務の状況に関する領域です。
57項目の中には、仕事の量や難易度、労働時間、裁量の有無、人間関係、作業環境、働きがいなどに関する質問が17項目含まれます。「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「高度の知職や技術が必要なむずかしい仕事だ」「働きがいのある仕事だ」などの質問があります。
心身のストレス反応
心身のストレス反応は、最近1か月間の心身の状態に関する領域です。
57項目の中には、気持ちや感情、体の不調、睡眠、食欲などに関する質問が29項目含まれます。「活気がわいてくる」「頭が重かったり頭痛がする」「よく眠れない」などの質問があります。
周囲のサポート
周囲のサポートは、周囲の人々との関係に関する領域です。
57項目の中には、上司、職場の同僚、配偶者・家族・友人などそれぞれについて、気軽に話したり、困ったときに頼ったりできるかどうかを問う質問があります。
ストレスチェックの実施方法
ストレスチェックの実施方法については、厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」に流れが記載されています。大まかな流れは以下の通りです。
1.制度導入前の準備 2.ストレスチェックの実施 3.面接指導の実施 4.集団ごとの集計・分析 |
それぞれについて詳しくご紹介します。
1.制度導入前の準備
企業は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止するため、「どのようなストレスチェックを実施するか」という方針を示す必要があります。この方針に基づいて衛生委員会で具体的な実施方法などを話し合います。衛生委員会は、従業員が50人以上の事業場に設置が義務づけられていて、事業者が指名する次の委員によって構成されます。(労働安全衛生法第18条)
1.総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者:1名(議長) 2.衛生管理者:1名以上 3.産業医:1名以上 4.衛生に関し経験を有する労働者:1名以上 |
衛生委員会が話し合う内容については、厚生労働省『ストレスチェック制度 簡単導入マニュアル』が参考になります。マニュアルでは「話し合う必要がある事項」として次の8項目が挙げられています。
1.ストレスチェックは誰に実施させるのか
2.ストレスチェックはいつ実施するのか
3.どんな質問票を使ってストレスチェックを実施するのか
4.どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか
5.面接指導の申出は誰にすればよいのか
6.面接指導はどの医師に依頼して実施するのか
7.集団分析はどんな方法で行うのか
8.ストレスチェックの結果は誰が、どこに保存するのか
引用:『ストレスチェック制度 簡単導入マニュアル』(厚生労働省、2015)
話し合いで決まったことは社内規定で明文化し、従業員全員に周知する必要があります。また、実施体制と役割分担も決める必要があります。制度全体の担当者、ストレスチェックの実施者、ストレスチェックの実施事務従事者、面接指導を担当する医師などを選任します。
とくにストレスチェックの実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から選ばなければなりません。産業医が実施者になる場合が多いですが、外部委託も認められています。
2.ストレスチェックの実施
従業員に質問票を配って回答してもらいます。オンラインで実施することもできます。
記入が終わった質問票は実施者または実施事務従事者が回収します。その際、事業者がストレスチェックに関する従業員の秘密を入手することは禁じられています。そのため、人事権を持つ従業員などが質問票を回収してはいけません。また、実施者や実施事務従事者には法律で守秘義務が課せられていて、違反した場合には刑罰の対象となります。
回収した質問票に基づき、実施者がストレスの程度を評価して、結果を従業員に通知します。従業員本人の同意なしに結果が企業に通知されることはありません。次の3つの結果は必ず通知すべきものとされています。
・従業員個人のストレスプロフィール ・ストレスの程度(高ストレスに該当するか否か) ・面接指導の対象か否かの判定結果 |
結果を保管するのは実施者または実施事務従事者です。結果を第三者が閲覧できないように、保管場所に鍵をかけたりパスワードによる管理が求められます。
3.面接指導の実施
ストレスチェックの結果から高ストレス者とされた従業員のうち、面接指導を望む申し出があった場合、企業は医師に依頼して面接指導を実施します。従業員が申し出できるのは結果が通知されてから1か月以内です。面接指導は申出から1か月以内に行わなければなりません。
企業は、面接指導を実施した医師から意見を聞き、労働時間を短縮するなどの就業上の措置を必要に応じて実施します。医師からの意見聴取は、面接指導後1か月以内に行わなければなりません。面接指導の結果は事業所で5年間保管します。
4.集団ごとの集計・分析
ストレスチェックの実施者は、企業からの依頼に基づき、ストレスチェックの結果を部、課、グループなどの集団ごとに集計・分析し、企業に提供します。企業は集計・分析の結果を踏まえて職場環境の改善に取り組みます。集団ごとの集計・分析は努力義務にとどまります。
なお、集団規模が10人未満の場合、個人が特定されかねないため、従業員全員の同意がない限り、企業は結果の提供を受けられません。
まとめ
ストレスチェックでは従業員のプライバシー保護や不利益取り扱いの防止が義務づけられています。従業員が安心してストレスチェックを受け、適切な対応や改善につなげられるようにするためです。
こうした制度上の制約から、人事担当者はストレスチェックの実施者になれません。同時に、従業員個人の質問票やストレスチェックの結果を閲覧することもできません。しかし、集団ごとの統計・分析の結果を踏まえて職場環境を改善し、人事担当者が実施者と連携しながら人事異動や労働環境の整備などを行っていく必要があります。

記事監修

スマカン株式会社 代表取締役社長 唐沢雄三郎
2008年より、一貫して現場に寄り添う人事システムの開発に注力している起業家。戦略人事情報・人材マネジメントシステム、マイナンバー管理システムをはじめ、近年はタレントマネジメントにまで専門領域を広げ、着実に実績を積み上げている。主力製品は公共機関など多くの団体・企業に支持され、その信頼と実績をもとに日本の人材課題の解決に貢献している。
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