- 最終更新日:
- タレントマネジメント
- 人事戦略
心理的資本とは|HEROモデルや心理的安全性との違いを解説
関連資料を無料でご利用いただけます
心理的資本とは、従業員が前向きに仕事に取り組んだり、困難を乗り越えたりするための力のことです。
現代はさまざまな社会や経営のあり方の変化から、企業においても注目が集まっています。一方で心理的資本について理解できていないという担当者もいるのではないでしょうか。
当記事では、心理的資本の概要や特徴、注目されている背景、高める方法などについて解説します。
従業員のマネジメントに課題を抱える経営者や人事担当者の方は、ぜひお役立てください。
目次(タップして開閉)
心理的資本とは
心理的資本とは、働く人が仕事に対して自律的に困難を乗り越える力のことです。自己効力感や希望、楽観性、回復力という4つの要素から構成されています。
心理的資本を高めることで、従業員はストレスや困難に対処するポジティブな能力が強くなるため、健康や幸福感に影響を与えるとされています。
また心理的資本が高い従業員は、組織に対する忠誠心・貢献度や、生産性・パフォーマンスなども高くなるといわれているのです。
モチベーションとの違い
心理的資本とモチベーションは、どちらも従業員のパフォーマンスに影響を与える要因ですが、意味合いとしては異なります。
モチベーションは従業員が仕事に取り組む意欲や熱意をあらわす言葉であり、置かれている状況や体調などによって変化する「感情」のようなものです。
一方で心理的資本は、日々開発し高められる能力やスキルにも近い「資産」の一つと考えられています。
モチベーションなどさまざまな要素を支える土台として従業員のパフォーマンスに長期的な影響を与えます。そのため心理的資本は、一度高められると喪失しにくいといえるでしょう。
心理的安全性との違い
心理的資本と心理的安全性は、単語の見た目としては似ていますが別の意味を持つ言葉です。
心理的安全性は、従業員が自分の意見や考えを自由に表明できる「環境や状態」を指します。心理的安全性が高い環境では、従業員は自分の意見を言いやすくなり、職場内で創造性やイノベーションが促進されるとされています。
一方心理的資本は、仕事におけるトラブルやストレスを前向きに乗り越える、従業員の「心の作用」を意味します。
従業員の健康や幸福感に影響を与える点では心理的資本と重なる部分もありますが、異なる概念のため別々に捉える必要があるでしょう。
心理的資本に関するポジティブ心理学の潮流
ポジティブ心理学とは、人間の幸福感や生産性を高めるために長所や強みに焦点を当てる心理学の分野です。
企業においては、従業員の幸福度を高めるための教育や研修などにポジティブ心理学の考えが取り入れられることがあります。
心理的資本もポジティブ心理学のテーマの一つであるため、より体系的に理解していくために、ポジティブ心理学における研究の流れと心理的資本の位置づけについて解説します。
人的資本(Human Capital)
ポジティブ心理学において、まず着目されたのが「人的資本」です。
人的資本とは、企業の「4つの経済資源」といわれる「ヒト」「カネ」「モノ」「情報」のうち「ヒト」の持つ能力を資本として捉える考え方です。たとえば、人材が持つスキルや知識・経験・能力などが挙げられるでしょう。
人的資本を高めることで、従業員の生産性やモチベーションが向上し、企業の価値向上につながると考えられているのです。
近年は人的資本経営への注目が高まり、企業は研修や教育システムなど、人的資本を高めるための投資に力を入れるようになっています。
>>>無料でお役立ち資料をダウンロード 人的資本経営の基礎がわかるガイド |
社会的資本(Social Capital)
ポジティブ心理学において次に着目されたのが「社会的資本」です。
社会資本とは、人々の社会的なつながりや信頼関係、ネットワークなどの重要性を説く考え方です。
人々の協調活動を促進することで、ものごとの効率性を高めたり、ビジネスやコミュニケーションを円滑に進めたりできるといわれています。
自社で社会的資本を養うことができると、以下のようなメリットを得られるでしょう。
得られるメリット | 例 |
---|---|
社内の関係性向上 | 仕事で困ったときに、先輩や同僚が助けてくれる |
事業の円滑化 | 地域住民との信頼関係を築けていると、事業を円滑に進められる |
そのため企業内はもちろん、企業を取り巻く環境においても重要となる概念といえるでしょう。
心理的資本(Psychological Capital)
ポジティブ心理学において、近年新たに着目されるようになったのが「心理的資本」です。
心理的資本は、人的資本や社会的資本の土台にもなっている考え方といえます。
従業員の心理的資本が高まると、新たなスキルを身につける意欲がわいて人的資本が高まったり、積極的に他者とかかわろうと思い始めて社会的資本が高まったりする可能性があるためです。
つまり、心理的資本は人的資本や社会的資本の土台でもあり、どちらにも好影響を及ぼすものといえるでしょう。
心理的資本が注目されている背景
企業において心理的資本が注目されるようになったのは、さまざまな社会的背景があります。
不確実性の高いVUCAの時代である
現代のビジネス環境は「VUCAの時代」と呼ばれ、不確実性の高い状況にあります。
VUCAとは、以下の頭文字をとった言葉で、市場や社会情勢が急激に変化することが予想されています。
Volatility | 変動性 |
---|---|
Uncertainty | 不確実性 |
Complexity | 複雑性 |
Ambiguity | あいまい性 |
たとえば、IT技術の急速な進化や気候変動・環境破壊の深刻化、少子高齢化の加速、新型コロナウイルスによる混乱などが挙げられるでしょう。
このような環境下で、変化に強く柔軟な企業となるためには、従業員が主体的かつ意欲的に行動する姿勢が求められます。
こうした背景から心理的資本が重要視されているのです。
人的資本経営・ウェルビーイング経営が推進されている
近年、企業において人的資本の重要性が再認識され、人的資本経営やウェルビーイング経営が推進されるようになりました。
人的資本経営は、人材の価値を最大限に引き出す経営手法であり、ウェルビーイング経営は、従業員の心身の健康と幸福感を重視する経営手法です。
少子高齢化や労働力不足が深刻化する中で、今いる従業員で最大のパフォーマンスを目指す動きが活発になっていることが背景といえるでしょう。
このような人的資本経営やウェルビーイング経営の土台として、心理的資本の構築が必要とされています。
従業員のワークエンゲージメントが重要視されている
ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対して高い意欲や熱意を持って取り組んでいる状態を指します。
従業員のワークエンゲージメントは、企業の生産性や成果に直結するとされているため、重要視する企業が増えているのです。
心理的資本が高い従業員は、みずからの能力に自信を持ち、楽観的で前向きな姿勢を持って仕事に取り組む傾向にあります。
ワークエンゲージメントの向上に向けても、心理的資本が求められているといえるでしょう。
人間にしかできないことが求められている
AI技術の発達やロボットの進化により、従来は人間が行っていた業務の多くが自動化されつつあります。
そのため今後求められるのは、機械が代替できない人間特有の能力やスキル、感性であると考えられています。
心理的資本を高めることで、従業員はより柔軟な発想力や創造力を身につけ、これからの社会に求められる役割を果たせるでしょう。
心理的資本の構成因子「HERO」とは
心理的資本は大きく4つの要素によって構成されており、その頭文字を取って「HERO」と呼ばれています。それぞれの要素について、1つずつ解説します。
Hope(希望)
Hope(希望)は「明るい未来への期待感や達成する目標への意欲を持った状態」を指します。
自分の将来に目標と期待を持ち、逆境や失敗に対しても前向きに取り組む高いエネルギーを持っている状態といえるでしょう。また目標達成のために進むべき道を思い描き、進み続ける力も持ち合わせています。
希望は、目標設定や自己肯定感の向上などを通じて、育成できるでしょう。
Efficacy(自己効力感)
Efficacy(自己効力感)は「自分が目標達成に必要な能力や力を持っているという自信」をあらわします。
自分自身に対して根拠のある自信を持ち、目標達成に向けて取り組むことができます。失敗や困難にぶつかっても、自分への信頼感をもとに行動を起こせるため、さまざまな行動に対する原動力となるでしょう
自己効力感を高めるためには、小さな成功体験を積み重ねたり、本人が尊敬する人や信頼している人からの褒め言葉を受けたりすることなどが有効といわれています。
Resilience(回復力)
Resilience(回復力)とは「ストレスや困難な状況に直面した際に、落ち込んだ状態から自分自身を回復させる力」のことです。
ミスやトラブルを起こしてしまっても、あきらめずに対処して乗り越えられる状態です。
回復力が高いと、昇進による責任の増大などポジティブなストレスに対しても、受け入れて前に進もうとすることができます。
回復力を高めるためには、ストレスマネジメントや自分が活かせる強みは何か、どんなことが足りないのかという自己観察を習慣化するのが有効でしょう。
Optimism(楽観性)
Optimism(楽観性)は「未来に対して明るい展望を持って楽観的にものごとを捉えられる力」をあらわします。
不運や失敗に直面しても、それをチャンスと捉えて前向きに取り組めます。自分にとってよくない事態が起きても、自分には悪いことばかり起きてしまうと悲観的になるのではなく、この状態は今だけと思考を転換できる力ともいえます。
ただし楽観性が高すぎると、失敗や不運を真正面から受け止められず、現実的な評価ができなくなることがあるため、柔軟な思考も必要といえるでしょう。
楽観性を高めるには、ポジティブ思考を身につけたり、運動やリラックスする時間を設けたりすることが効果的とされています。
心理的資本の特徴とは
心理的資本には、いくつかの特徴があります。主なものを3つご紹介します。
・開発できる ・ワーク測定できる ・さまざまな要素に影響を与える |
開発できる
心理的資本は、人々の心の状態や思考パターン、行動などに関する能力やスキルの集合体であり、トレーニングや学習によって開発できます。
個人や組織の取り組みによって向上させられるため、自己成長やチームビルディングに関する研修が効果的でしょう。
研修を行うとき「心理的資本の研修」とするのではなく、構成される4つの要素(希望・自己効力感・回復力・楽観性)に合わせた研修を実施するのがよいとされています。
測定できる
心理的資本は定量的に測定する方法があります。
「Hope」「Efficacy」「Resilience」「Optimism」から、それぞれ6問ずつ合計24個の質問によって数値化できるのです。
心理的資本を数値化すると、課題の把握や改善策の検討などに役立つでしょう。
さまざまな要素に影響を与える
心理的資本は、従業員のさまざまな要素に影響を与えるといわれています。
たとえば以下の通りです。
・パフォーマンス ・満足度 ・組織コミットメント ・幸福感 ・ウェルビーイング ・健康 ・人間関係 ・やりがい ・自己開発、成長への投資 |
心理的資本を高めることで、組織全体の生産性や効率性の向上が期待できます。
ストレスやプレッシャーなど負の要素にも強くなるため、従業員の健康管理や精神衛生にも役立つでしょう。
心理的資本を高めるには?
従業員の心理的資本を高めるためには、以下のような方法が有効とされています。
・自己肯定感を高める ・周囲の支援を求める ・目標設定と自己管理を行う |
自己肯定感を高める
自己肯定感を高めることは、心理的資本を高めるうえで非常に重要といえます。
自己肯定感が高い人は、自分の存在自体に自信を持ち、積極的に行動できるため、自己効力感や希望、楽観性、回復力も向上させることができるのです。
自己肯定感を高める方法には、自分自身をよく理解して自分の長所や成果に焦点を当てたり、小さな成功体験を積み重ねたりするやり方が挙げられるでしょう。
周囲の支援を求める
周囲からの支援も、心理的資本を高めるために重要です。
他者との良好な関係性は、ストレスへの対処能力や自己効力感の向上、希望や楽観性を促進する効果があるといわれています。
周囲からの支援を得るには、友人や家族、同僚などと密にコミュニケーションをとること、趣味やスポーツなどの活動に参加すること、心理カウンセリングを受けることが有効でしょう。
目標設定と自己管理を行う
目標設定と自己管理の実践によっても、心理的資本を高められます。現在の自分の状態を把握し、達成可能な目標を設定したうえで、定期的に自己評価を行いましょう。
自分自身に新しい目標を設定し、達成するために努力することで、自己効力感や自尊心を高めることができるのです。
さらに、目標への挑戦と自己管理によって困難を乗り越える力が身につき、ストレスへの対処能力も高まるでしょう。
心理的資本経営における企業と従業員
心理的資本経営において、企業は従業員の心理的資本を高めるための取り組みが求められます。
従業員が自己効力感を高めたり、楽観的な考え方を身につけられたりするような環境を整備する必要があるでしょう。
具体的には、
・従業員が自己啓発をするための研修やトレーニング ・ワークライフバランスの改善 ・上司と部下や同僚同士のコミュニケーション促進 ・適切な目標設定と管理 |
などが挙げられます。
また企業だけでなく、従業員自身が心理的資本を高めるための活動に取り組むことも重要といえます。
具体的には、
・自己啓発のための読書やセミナー参加 ・身体的な健康維持 ・プライベートな時間の確保 |
が挙げられるでしょう。
心理的資本の国内における定義づけ
日本国内でも心理的資本について、政府や研究機関、民間企業などさまざまな団体によって言及されています。このような調査レポートなどに目を通すと、さらに理解を深めることができるかもしれません。
たとえば厚生労働省の『令和元年版 労働経済の分析』では「働きがいをもって働くことのできる環境の実現に向けて」という章の中で、心理的資本について触れています。
民間企業では、株式会社第一生命研究所がレポートを公開しており、心理的資本に関する考え方が定義されています。
ほかには心理的資本に関する国内外の情報を発信している、協会もあるので参考にしてみてください。
参照:『令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-』厚生労働省
参照:『Well-being経営に役立つ心理的資本』株式会社第一生命研究所
参照:日本心理的資本協会
まとめ
心理的資本とは働く人が仕事に対して自律的に困難を乗り越える力のことです。
心理的資本は「Hope(希望)」「Efficacy(自己効力感)」「Resilience(回復力)」「Optimism(楽観性)」の4つで構成されています。
研修やトレーニングによって開発できたり、いくつかの質問によって数値化して測定できたりすることが特徴といえるでしょう。
また、心理的資本を高めることで従業員のモチベーションや職場の雰囲気などさまざまな要素に影響があるといわれています。
心理的資本を高めて自己肯定感やストレス耐性を身につけるために、個人が挑戦や目標管理を意識して行動するとともに、企業や周囲の人間が積極的にサポートする環境づくりが重要となるでしょう。
記事監修
スマカン株式会社 代表取締役社長 唐沢雄三郎
一貫して現場に寄り添う人事システムの開発に注力している起業家。戦略人事情報・人材マネジメントシステム、マイナンバー管理システムをはじめ、近年はタレントマネジメントにまで専門領域を広げ、着実に実績を積み上げている。主力製品は公共機関など多くの団体・企業に支持され、その信頼と実績をもとに日本の人材課題の解決に貢献している。
SHARE
関連資料を無料でご利用いただけます
コラム記事カテゴリ
こちらの記事もおすすめ
スマカンの導入をご検討の方へ
実際の画面が見られる
デモを実施中!